第8章 ◆田沼ノ寺
「・・・えっ。」
田沼の言葉に二人が押黙る。
ー・・・田沼にはこの血が見えていない?
って事は、妖のもの・・・?
夏目の考えている事がさなにも分かったのか
ひょこっと夏目の脇から顔を出すさなへ
夏目が目を合わすと、さなが軽く頷く。
「田沼、顔色が悪い。
一旦場所を移動しよう。」
顔面蒼白の田沼の肩を支えて
夏目は回れ右をさせるとその場を離れようと
来た道を戻る。
「あ、あぁ、そうだな。
・・・すまない、夏目。
客間が空いてるから、
そこまで案内するよ。」
夏目に支えられて我に返る田沼が
軽く頭を振って、少し蹌踉めきながらも
前を歩く。
「 無理はするな田沼。」
ー・・・迂闊だった。
田沼は、妖の気配を感じたり
断片的な物は見えても
妖そのものを見る事は出来ないんだ。
見えないもの、ましてや血なんてものが
自分の家に撒き散らされているなんて知ったら
どんな恐怖に陥ることか・・・。
「・・・ごめん、田沼。」
後悔の念が押し寄せる夏目は
客間に着き、田沼を座らせるなり直ぐ
その言葉を田沼に向けた。
「・・・?
何で、夏目が謝るんだよ。
依頼したのは俺だぞ?
ちょっと、ビックリしただけで
二人に気を使わせてしまって
俺の方こそ申し訳なかった。
だから、謝るのはもう無しにしよう。」
血色の悪い表情のままニコリと笑う田沼に
夏目も釣られて笑う。
「 あの、台所お借りしてもいいですか?」
二人の会話にキリがつくのを見計らって
さなが田沼の横に座ると
何かを準備すべく田沼に一声かける。
「あぁ、此処を出たところの奥だ。
ありがとうさなちゃん。」
さなの言葉に田沼が素直に頷くと
さなはニッコリと笑って客間を後にした。