第8章 ◆田沼ノ寺
夕暮れが早めに訪れる頃、
三人は八原の田沼の家に到着する。
「今日は父さん居ないみたいだ。」
引き戸の玄関を開けて先に入る田沼が
いつも置いてある靴が無いことを確認して
後ろの二人に告げた。
「勝手に上がって大丈夫か?」
「当たり前だろ。」
保護者の許可無く家に入ることに
夏目は心配するが、田沼から笑って肯定されると
ほっと胸をなで下ろす。
そして、
「 「お邪魔します。」」
夏目とさなは誰も居ない家内へ一声だけ掛けて
田沼の後を追うようにして中へと進んだ。
ー…あぁ、
どんよりと重いこの空気は…居るな。
中へ進むにつれて強くなる妖の気配を
夏目はひしひしと感じ取っていた。
その時、
「 夏目先輩…。」
不意に後ろに居るさなが夏目を呼び
歩きながらも、そっと
夏目の制服の袖を小さく摘んだ。
「ん?どうした?」
どことなく不安そうなさなの様子に
夏目は小さく問いかける。
「 え、と、はぐれない様に
握っててもいいですか?」
…家の中ではぐれる…?
確かに田沼の屋敷は広く、
分かり易いほどの日本家屋だ。
…洋風の家に住んでいるさなにとっては
家の中の方向感覚が難しいのかもしれないな。
夏目は自分の中でさなの言葉を整理すると
弱々しく袖を握っているさなの手を
しっかりと、握った。
「 えッ…!」
「こっちの方が、確実にはぐれないだろう?」
夏目の行動が予想外だったのか
いきなりの事で顔を紅潮させて目を丸くさせながら
夏目を見上げるさなに
「俺がさなの手を離すことなんて
確実に無いから安心してくれ。」
安心させるべく、夏目はニッコリと微笑んだ。
「 …はい。」
その言葉に安堵したさなは
顔を紅潮させたままニッコリ笑って頷く。
ー…聞こえてないとでも思ってるのか?
先頭を歩きながら二人の会話を
むず痒い心情で聞く田沼だった。