第8章 ◆田沼ノ寺
「…と、言う訳なんだ。夏目。」
ひとしきり、話し終わった田沼は
ベンチに腰掛ける夏目とさなを見下ろす形で
交互に視線を合わせた。
田沼の話によると
一月ほど前から部屋が荒らされていることがあり
泥棒かと警察に届け出た。
そして、捜査をするも手掛かりになるものは
ほとんど発見されず、ただひとつだけ
寺の住職である田沼の父親の本が
数冊無くなっているのみ。
その泥棒事件は翌週にも起こり、
やはり、田沼の父親の本が数冊無くなっていた。
警察もお手上げのこの怪奇的事件に
妖が関係しているのかもと踏んだ田沼が
夏目に相談を持ちかけたのだ。
「それに、何か気配を感じるのも事実なんだ。」
田沼は少し申し訳なさそうに付け足した。
「…なるほど、
本ばかり盗む、泥棒妖怪か。」
腕を組み、片手を顎に当てながら呟く夏目。
その姿をぼーっと横から見つめるさな。
そして、夏目から視線を外したさなが
小さな声で、ぼそり、と呟いた。
「 …友人帳、探してるのかも。」
「…ぇ?」
その声はひどく小さく
隣にいる夏目でさえ
辛うじて聞き取れるほどのもので
田沼には勿論、聞こえていないようだった。
「 …あの、田沼先輩が良ければ
お家見させて下さい。
夏目先輩も気がかりでしょ?」
夏目の言葉を無視したさなが立ち上がり
田沼を見上げて問いかける。
そして、未だに呆気にとられている夏目に
視線を戻して、その腕を掴んで半ば強引に
夏目をその場に立たせた。
「わッ…! え?
あ、あぁ…そうだな。
見てみたら何か分かるかもしれないしな。」
いきなり立たされた事に驚きながらも
夏目はさなに同意した。
「ありがとう
夏目、さなちゃん。」
田沼はまたも申し訳なさそうに笑うと
ベンチに背を向け、夏目とさなと共に
寺の方へと足を勧めた。