第8章 ◆田沼ノ寺
「あ、それより、田沼。
話が途中だっただろう。」
さなが現れる少し前の話題が
夏目によって戻される。
「あぁ、そうだった。
此処だと、誰に聞かれるか分からないから
場所を変えないか?」
田沼はそう言って校庭傍にあるベンチへと
視線を送った。
その視線を追い掛け納得した夏目が、あぁと頷く。
そして、
「もし良かったら、さなちゃんにも
聞いて欲しいんだが、どうかな?
…夏目から少しだけ話は聞いてるんだ。
君も…その、夏目と同じ体質なんだろ?」
田沼は窓の外に移動した視線を、
目の前のさなへと変え
にこりと微笑みながら付け足した。
「 えぇと、いいんですか?修羅場なのに…。」
「 ぶッ!」
この後に及んでもまだ勘違いするさなに
夏目が小さく吹き出す。
「ちッ、違うぞ!さな、
俺と田沼が修羅場という話では無くて
田沼の家の話をしていたんだ。」
「ちょっと、訳ありでね。」
誤解を解こうと必死に捲し立てる夏目に続き
田沼がニッコリとさなに微笑みかける。
「 そうなんですか・・・?」
テンポよく続く夏目と田沼の会話に
さなは二人の修羅場では無い事を
漸く認識して、ゆっくりと何度も頷いた。
「 じゃ、
誤解も解けた所で早速移動開始だな。」
田沼の掛け声を合図に、
三人は帰り支度を整えて
校庭横のベンチまで移動する。
校舎から一歩出た所で
木枯らしとまでは行かないが、
ひんやりとした秋の風が3人を包み
各々を身震いさせた。