第4章 俺がアイツで、アイツが俺で 【前編】
俺達は唇を軽く重ね合わせる。
勿論お互いにそんな趣味はねぇから、さっさと唇を放して手でゴシゴシと口を拭う。
「う、おぇぇ。げほ、どうだ?戻って……ねぇぇ!!」
努力虚しく俺は叫び、真ちゃんは俺を恨めしそうに睨んでくる。
「おい、高尾。元に戻らないじゃないか。俺にこんな真似をさせておいて…」
もう真ちゃんの文句に付き合いきれなくなるくらい精神がすり減り、俺はヘナヘナと腰が抜け某然とする。
あー、ずっと元に戻らなかったらどうしよ。夏美は俺in真ちゃんに取られて、俺は真ちゃんとして生きなきゃいけねーのか…。
せめて、明日の夏美の水着姿だけでも拝みたい…。
ん、待てよ!?
思い付いた俺は手のひらにポンと拳を置く。
「明日、俺も一緒に行けばいいじゃん!!」
「どうした、高尾。一体なんの話だ?」
真ちゃんは腰を下げて、俺をしかめっ面して睨む。
「プールの話なんだけど、真ちゃん明日一緒に来てくんね?」
「…なぜ、俺まで行かなければならないのだよ?」
真ちゃんは面倒臭そうに溜息をついて訳を尋ねるが、俺は可愛い夏美の水着姿の為にも引き下がるわけにはいかない。
「だって真ちゃん今俺の姿してんだから、真ちゃんになった俺だけだとおかしいじゃねーか。頼むよ!」
「断る。今年は受験だろ?お前達に構ってる余裕などないのだよ。氷室には断っておけ」
まー真ちゃんの事だから簡単に折れてくれる筈がないのは百も承知。けどここは自慢のコミュ力を発揮する時だ!
「うーん、でもよ、真ちゃん?俺達さ、なるべく一緒にいた方がいいと思うのだよ。いざ不自然になった時にお互いフォローしあえるじゃん?それによ、一緒にいなきゃ元に戻れなくね?」
「……」
真ちゃんは腕を組んで黙る。多分めっちゃ悩んでるんだろうな。俺は期待を込め、目を潤わせて真ちゃんを見つめる。