第3章 もう我慢できない… *裏
氷室は一体何がなんだかわからないと言いたげな困った顔をしている。
まあそれはそうなのだよ。俺自身も驚いている。なにせ、氷室に俺の気持ちを少しでも気づいて欲しくてこのような愚行に走っているのだから。
「…俺が高尾なら、すぐに手を出さない。お前の気持ちを優先する。」
俺は全く似てもいない高尾に自分と重ね合わせて答えた。
高尾も多分こいつの為ならそうするだろうとは思うが、本人でないから実際はわからない。
先程の俺の発言には推測した高尾の気持ちは2割、残り8割は俺の気持ちが込められている。
(お願いだ、気づいてくれ。そして二度と俺に近づくな。)
だがその願いさえも虚しかった…。
「…ホントに?」
彼女は大きな目を輝かせ心底嬉しそうだった。この様子じゃ全く気づいてない。
それに俺の事を信用し過ぎではないか?
俺は虚しくて目を逸らし、いつも以上に低い声で文句を言う。
「…あいつからずっと惚気話を聞かされてる身にもなってみろ。…いい加減うんざりなのだよ。」
「ちょっと!?一体、どうしちゃったの?」
心配してくれた氷室は俺の服を掴もうとする。
(好きでもないくせに俺に触れるんじゃない!!)
そして反射的に彼女の手を払い除けた。
「…真ちゃん。」
なんとも悲しそうな顔をする氷室。俺も流石に冷や汗をかき即座に誤った。
「…すまない、氷室。」
「…ううん!きっと受験で気が立っちゃったんだね!」
氷室が作り笑いをしてるのは俺でも痛いほどわかった。そして罪滅しに彼女が喜びそうなことを震える声で言った。
「…高尾はお前が思ってる以上にお前の事が好きなのだよ。だから、心配することないのだよ。」
氷室の顔が見れなくてろくな挨拶もせずそそくさと去っていく。
帰宅し、自室へ直行するとあいつのことから頭が離れない…。