第3章 もう我慢できない… *裏
久振りにされたもんだから、思わず顔が緩み、カズ君よりちょっと広くて逞しい胸元に顔を埋めた。
「はは、甘ったれなとこは変わんないのな。」
「いーでしょ!だって久振りなんだもん、お兄ちゃんにハグされるの。」
「…ふ、可愛いやつ。」
お兄ちゃんに甘く囁かれて私は思わず微笑むけど、すぐにお兄ちゃんはハグを解き、私の両肩を掴んで心配そうに私を見つめた。
「もし、彼から求められて嫌だったら、ちゃんと断るんだよ?」
(そんな事は言われなくてもわかってる、でも私は…。)
「けど、カズ君に面倒臭い女だって思われたら、どうしよう…!」
私はお兄ちゃんの服を掴んで泣きつく。
「…もし、そうなったら彼に夏美の隣にいる資格はない。」
「それはつまり、もしそうなったら別れるってこと…?」
顔を上げるとお兄ちゃんは厳しい顔をしており、目線も鋭かった。
「…ああ、欲望を優先させるようならそれまでだったってことになるな。」
(嫌、そんなの嫌…!!)
私は別れる時の事を考えてしまい、涙がポロポロと出てしまう。お兄ちゃんの胸元で目を擦り、涙を拭く。
「…厳しい事を言うようだけど、お前のために言ってるんだ。じゃないと、あの時の二の舞になるよ。」
「…でも、でも!」
(別れたくない…!カズ君はそんな人じゃないよ…!)
お兄ちゃんは泣きじゃくる私の背中を摩り、今度は優しく囁いた。
「大丈夫さ、俺が彼を見込んだんだぞ。彼なら夏美の事を第一に考えてくれるよ。もし、見込み違いなら、容赦はしない。」
「お兄ちゃん…。」
私はカズ君を信じてるし、これからも信じたい。
今までカズ君がくれた愛や思い出は嘘なんかじゃない。
お兄ちゃんの胸元に暫く抱きついているとクッキーが焼け、服を着替えて準備を済ませると家を出た。