第13章 見つめる先にあるものは
赤葦
「声かけても、抱き起こしても起きないんですね。」
静かな廊下に響く足音。
遠くからはボールの音が微かに聞こえる。
行く当てもなくふらついて、
結局保健室。
赤(俺らのとこに連れて行ったら行ったで、
面倒くさそうだ。
かといってマネージャー達のところに行ったら、
白福さん達が怖いな…。)
かといって保健室ってのもどうかと思うけれど。
合宿中は、救急箱の中にあるものではなんとも出来ないような
怪我を負ったときの為に鍵は開いている。
ベットにそっと寝かせる。
その動作中も起きる気配が無い。
近くにある椅子を持ってきて、
ベットの側に座る。
「藍蘭さん、俺を選んで。」
本人が聞いているわけでは無い。
だからこそかもしれないけれど、すらすらと言葉が出てくる。
「好きになって。」
なんで女々しい発言だろう。
好きにさせてみせる、だなんて言えたらいいだろうに。
生憎自分は女性を魅了する様な外見も性格も
持ち合わせていない。
立ち上がり、踵を返すと微かに声がした。
「泣かないで」
あおむけになっていた身体は、
いつの間にか俺に背を向けていた。
(いつから起きてたんですか、藍蘭さん。)
「慰めることは、出来ないけど、
赤葦さんには、笑っていて、欲しい。」
なにも言わない俺に彼女は続ける。
「困った様にわらうのがすき。
口元だけ綻ばせて、こっそりわらうのがすき。
なんでもない様に唯々わらうのがすき。」
「だからどうか泣かないで。」
知らぬ間に流れていた雫を拭う事もせず、
彼女の肩を掴み仰向けにした。
重量オーバーのベットが軋む。
「あんたも、泣いてんじゃないですか。」
眼の両端を流れる涙を拭って、
深く唇を落とす。
涙の理由が俺だったらいい。
俺を想っての涙であって欲しい。
そう思うほど、口付けは深くなる。
離れた唇からは銀の糸が引いて名残惜しそうに切れた。
「慰めてくれないんですか」
そういうと、ほおを紅潮させて
別の事でなら…だなんて返ってきたから
そういった知識のある事に驚いて。
高校生だし、となんとなく納得がついてしまって。
真っ赤になった顔を覗いて
少しだけ確信を持って俺は聞いた。
「好きになってはくれないんですか」