第12章 苦さと、甘さと
「なんだよ、それ…。」
バスに小さく声が響く。
エンジン音、規則正しい寝息、いびき、寝言。
その中には相応しくない光景が目に入る。
「結局、こういう事かよ。」
イラついた声。自嘲した表情
それは、誰にも伝わらない。
見たくもないのに、逸らすことの出来ない視線。
滝ノ上さんは、運転に集中していて、
小さな音には気づかない。
監督やコーチも爆睡だ。
乱雑に髪をクシュと、掴んだ。
「嫌だよ、これは。誰が見たって、こう思うよ。」
少しだけ前髪を上げて、
額にキスを落とす。
「これくらい、させてよ。」
席に戻ると、眉間にしわがよるのがわかる。
行き場のない怒りをただただ感じて、
ギュと拳を握る。
ため息をついて、窓に寄りかかる。
冷たい。
頭の熱を冷やしていく様に、皮膚から熱を奪う。
「いいもしないくせに、何イラついてんだよ。」
そんな自分が、大嫌いだ。