第9章 繋げる為と、戻れぬ様に。
灰羽
灰羽「だーれーだー」
朝に会えたことの喜びは秘めて
脅かす様に目を隠す。
突然のことに驚いた様で、
言葉の単音しか話さない。
「リエーフ、さん?」
俺の、名前っ!
灰羽「なんでっ!?わかったの??」
藍蘭「声?」
あまり話さない彼女は、
声を覚えていた。
それだけで、嬉しかった。
思い出したことをそのまま口にした
灰羽「先輩だったっ!」
藍蘭「え?」
確かにあれだけでは、通じないだろう。
灰羽「藍蘭が先輩でした!」
呼び捨てなのに、後ろが敬語という、
よくわからない言葉だが、
藍蘭「いいよ、もう。私も名乗らないのがいけませんし。気にしませんよ?」
柔らかい物腰。
彼女はそのまま言葉を重ねるが、
髪を耳にかける動作に見とれた。
ボーッとしていた俺を、覗き込む。
藍蘭「大丈夫?今度は、貴方が具合が悪い?私、貴方の様には、運べないわ。」
冗談めかしくいう彼女は、
笑ったりすればやっぱり綺麗で。
灰「それは、無理、っスね。」
笑って話せばよかったのに、
妙に言葉が途切れる。
(はっきりと、わかったかな。確信、した…?)
自身の想いなんか、少しだけ信じれない。
誰かに言われた方が、よほど理解できる気がした。
(今、想ったって余計なだけ。)
もう、すぐに終わる合宿の直前に気づいたって
どうしようもない。
(あっ!)
「メアド、教えてくださいっ!」
これが、自分に思いつく
最大の努力
(話せるなんてこと、時間がない。
でも、これが終わったら少しは…。)
少しの希望を込めて。
彼女は頷いて、はい。と言った。
頑張った。
この過去形に、辿り付かぬ様に
最大限の悪あがきを……。