第5章 行く手を阻まれ揺れる想いは
月島
本当は、黒尾さんになんて言われてない
全部知っていた。
赤葦さんの事、木兎さんの事。
彼女の変化に気付かないわけがない。
話す事こそないが、去年から見ていた。
中学の時は、電車通学だった。
山口と一緒に、毎日同じ時間の電車に乗った。
部活で疲れた身体を揺らす電車の揺れは眠気を誘う。
しかしこの日は違ったのだ。
反対側の席に座る藍蘭。
制服で学校は分かった。
兄のいた、烏野高校。
この頃、僕は彼女の名前すら知らないし、
先輩になるだなんて、思ってもいなかった。
合宿中の彼女は、少し不思議だった。
試合中でも、ふとした時に上の空で、
困ったような表情を浮かべている時もあった。
しかし、電話の時は嬉しそうで。
相手を知った僕は苦しくなって。
でも一度、迷った様な雰囲気で電話をしている時もあった。
その電話を境に、曇った顔をする彼女もよく見た。
相手は、目線から察するに、木兎さん。
だから、僕は知っていた。
ここにいるのも、もちろん意図的にいる。
彼女に困った顔なんて、させたくない。
こんな事、ガラじゃないとか思うけど、
まぁ、藍蘭さんだしね。
僕が少しだけこういう事しても、いいかな。