第14章 熱
孤爪
誰にも見つからずになんとか目指すののは最上階の教室。
ちょうど反対の階段から、お互いの顔が見えて
少しだけ手を振る。
藍蘭「ちょうど良かった。」
孤「結局、10分前だね。」
小さく笑いあって、教室に入る。
電気をつけないまま、椅子を窓際に持っていく。
少しだけ息を呑む声が聞こえた。
あかりの少ない森然だから、この前の合宿よりも
星が多く見える。
そういえば、特に気にして空を見上げるなんてこと
していなかったと思う。
…あのときがなければ。
ふと、彼女の顔を見て思わず笑みがこぼれる。
孤「藍蘭のお陰かな。」
藍蘭「?」
聞こえてなかったらしい。
きょとんとした顔をしたけど
なんとなく笑って、また空を見上げた。
それにつられるように、空を見上げる。
いつも目にする機械的な光や
刺激的な光。
それらよりも優しく、はかない光。
藍蘭「今見てる光は、ずっと昔の光が長い時間をかけて、
やっと届いた光なんだよね。
それってとてもすごいことだと思うんだ。」
孤「そうだね。
今見える星は、何百、何千年も前の星だから、
今できた星は、俺たちは見れない。」
藍蘭「じゃあ、昔の人はこんなに沢山の星は見れなかったのかな」
孤「そうかもしれないね。」
気付いたら彼女のすぐ側にいて。
彼女の手を握っていた。
「おれ、藍蘭の事、好きだよ」
藍蘭「!……」
孤「藍蘭に何かあったのかな、て思ってたのに、
本当は言っちゃいけないのに。」
藍蘭は、こっちを見てる。
戸惑った目で見てるけど、手は無理に解こうとはしない。
藍蘭「ごめんなさい研磨。私ね…」
孤「誰かと、付き合ってるんだよね。
知ってても言ったのは、おれの勝手だから…。」
藍蘭「……。」
孤「本当は困らせたくなかったんだ。
けど、言わずに終わらせたくないってまた俺の我儘なんだよ。
だから、ね?」
藍蘭「う、ん……。」
姿勢は前に、しかし視線は足元に揺れている。
孤「明日も、見に来ようか 星。」
藍蘭「うん。そうしよう。」
彼女の姿は以前見たあの姿と重なった。
孤(今度は、俺が泣かせちゃったんだね。)