第3章 何も知らない猛獣は
赤葦
赤葦「黒尾さん、あなただったんですね。」
部屋にいたのは、黒尾さんだった。
黒尾「だったってのはどういうことかな。」
赤葦「彼女のことです!」
黒尾「あー…藍蘭ちゃんのことね。」
赤葦「答えてください。」
黒尾「なんで?」
とても冷ややかな目だった。
逃げたくなるような、相手を威圧する目。
重くて、息もし辛い空気が漂う。
黒尾「べつに、関係ないよね?」
確かに、俺には追求する権利などない。
だからと言って引く気はない。
何かを言わずには、ちゃんと知らなければ、
逃げるわけにはいかない。
赤葦「関係はないかもしれません。お二人に入る権利もありません。でも、でもっ…!」
思っていても、言葉は繋がらない。
黒尾「ないなら、知らなくてもいいんじゃないの?」
赤葦「でも俺はっ…藍蘭さんが好きです。」
黒尾さんは喉で笑った。
黒尾「そう。いいんじゃないの、好きでも。 でもね、助ける義理はないよ。」
ここに来た時から、彼らとすれ違った時から、
なんとなく気づいていた。
赤葦「べつに、関係ないですもんね。」
黒尾「諦めたら?何てことは言わないけどさ。」
眼中にすらないとでも?
黒尾「彼女、真っ赤な顔で見てたよ、俺んこと。あとは、リエーフにでも聞けば?」
いつもの笑顔で、そう言い放って
凍てつくような視線を向けると、俺の横を通り抜けた。
不安だけをここに残して