第11章 恋が始まる夏祭り
カラコロカラ
下駄の音が夜空に木霊する。2人は河川敷を並んで歩いていた。
「……」
神楽はふと、ピタッと立ち止まった。
「どうかしたのかィ? おいてくぞー」
止まった神楽に気付いた沖田が後ろを振り向いて言った。
そんな沖田を神楽は悲しそうな顔をして見た。
(何も言ってくれない……)
ーーやっぱり“お粗末様”。
神楽はクルッと回れ右をして、いきなり走り始めた。
「あっオイばか! 下駄なんかで走ったら……」
沖田が言い終わるよりも早く、神楽は転けてしまいそうになった。だが……。
「あっぶねー」
間一髪のところで、沖田が神楽を抱き締めた。
「慣れてねーんだからはしゃぐんじゃねェよ」
「……うん」
神楽は恥ずかしそうに顔を赤くした。
「ありがとう」
「……」
(あー、もうダメだ)
沖田は神楽の顔にそっと手を寄せた。
「ん?」
そして……。
「むォ!」
神楽の後頭部を抑えて自分の方へ引き寄せようとした。が……。
「やっやだっ」
神楽が沖田を突き飛ばした。
沖田はハッと我に返った。
「いっいきなり何しようとしてくれてんだヨ。やっぱりお前嫌い!」
神楽は下を向いて、沖田に文句を言っている。
「……」
「だいたいお前……っ」
「ごめん。どうかしてた。もうしない」
上から降ってきた言葉に神楽はハッとした。顔を上げると、沖田は神楽に背を向けていた。