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君がいた夏

第2章  爪痕【赤司征十郎】*裏あり


振り向いた女の美しさは想定以上で俺は内心驚愕していたが、想像を超えていたわけではない。俺はいつも通り平静を装って、女に微笑みを向けた。

女もすかさず俺に微笑むと、心がキュッと締め付けられる。今まで味わったことのない感情が俺を襲う。


それに、なんとなくだがその気品溢れる微笑みに亡くなった母親を彷彿とさせた。


「貴方も一人ですか?」

「ええ、そうよ。好きなの。1人、BARでゆっくり飲むの」

そう言って女はコップに口をつけて、一口をゆっくりと飲んだ。なぜだろう、彼女の一つ一つの動作にこんなにも見入ってしまうのは。


「素敵ですね。けど、貴方の様な美しい女性が1人でいると危ないですよ」

「ふふ、お上手なのね。ありがとう。…でも大丈夫、こんなおばさんもう誰も相手にしないわ」

彼女は口に手を添えて礼を言い微笑むと、目を俯く。


何故そんなに切なげなんだろうか?
…もっと彼女の事を知りたい。


そう思った自分に俺は内心驚きと戸惑いが隠せない。だって女性に興味が湧いたのは正直初めてだったからだ。
名前を聞こうとしたその時、彼女は俺の顔を覗き込んできた。


「貴方、20代?にしては物腰柔らかいし、かなり落ち着いてるわね」

「はい、よく言われますね」

顔が近くなって俺は思わず唇に目がいく。
そこはぷっくりと潤おい、紅いルージュが塗られて大人の色気を感じる。



口付けをしたら、一体どんな感触なんだろうか?
…一体何を考えてるんだ、俺は。


初対面にも関わらず、そういつの間にか思ってしまい、自分が恥ずかしくなって目を逸らす。

「…あら、意外と初心なのね。それに飲んでるの、カクテルでしょ?」

「な!?」


図星だった俺は彼女の方へ振り向き直す。

「ふふ、すましたくせして可愛いところあるじゃない」

また彼女は口に手を添えて微笑む。悔しい事にまた俺は見惚れてしまう。

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