第3章 譲れないマシュマロ【氷室辰也&紫原 敦】
ー紫原 ENDー
私は納得がいくまで心に問いかけると、自然と紫原君の手を握っていた。
「…ナナちん」
彼は面を食らった顔をして私を見ている。
氷室先輩を選ぶと思っていたのかな?
そりゃ氷室先輩はずっと憧れた先輩だけど、紫原君との居心地の良さには敵わなかった。
「本当にいいの?」
「何言ってるのよ、当たり前じゃない!こ、これからもよろしくね、紫原君」
「…う、うん」
今までずっと友達だった紫原君とこれから恋人として付き合う事になるんだ…。
何だか小っ恥ずかしくて、目を俯きながら握手をする。
「おいおい、敦まで下向いちゃって。初々しいな、2人とも」
氷室先輩に言われて見上げる。表情は暗くてよくわからないけど紫原君も私と同じように下を向いていた。
「…煩いよ、室ちん」
「はは。ところでナナちゃん」
「は、はい!?なんでしょう!?」
いきなりその端正すぎる顔を近づけてきたので、私は恥ずかしさで少し後退る。その影響で握っていた紫原君の手を離してしまう。
けど彼はそんな私を見てクスっと口角を上げ、私の肩に手を置き耳元に囁いてきた。
「敦に愛想が尽きたらすぐに俺の所へ置いで……。待ってるからさ」
「〜!」
しかも先輩の吐息が耳にかかって、体が勝手にビクビクと反応してしまう。
てゆうか、これって絶対狙ってるでしょ?帰国子女の先輩ならあり得る…。
私が言い返せないでいると紫原君が私の腕を掴み、私を胸元まで抱き寄せた。
「なに、ナナちんのこと口説いてんの?室ちんは振られたんだから大人しく帰ってよー!」
「む、紫原君…」
まるでお気に入りのおもちゃを取られないように必死で守る子供みたいに紫原君は氷室先輩を威嚇する。
だけど先輩は口角を上げて余裕ぶっていた。
「…全く酷い言い草だな。俺こう見えても負けず嫌いだし、ナナちゃんの事を諦めたわけじゃないからな。せいぜい頑張れよ、敦」
「望む所だし〜!」
そうして氷室先輩は「じゃあな」と言い、ヒラヒラと手を振って踵を返し去っていった。