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君がいた夏

第3章 譲れないマシュマロ【氷室辰也&紫原 敦】


氷室先輩の言葉が今の私にとってはとても優しくて、けど逆に心が痛んでしまう。

なんで彼は私なんかを好きになってくれたんだろう…?

疑問が尽きなくて素直に先輩の言葉を受け入れられない私は夢中で彼のTシャツを掴んだ。


「…先輩!けど、私、優しくなんかないです!」

「どうして?」

「だって、紫原君はデブスな私を嫌がらなかったから!」


そう、紫原君だけは唯一私と楽しく喋ってくれ、コンプレックスを忘れられた。初めての男友達だったし、そのままの自分でいられた。
…なのに、氷室先輩を選んでしまった。


選択したのは自分なのに、折角仲良くなった紫原君が離れていくと思うと寂しくて、彼には悪い事をしたと思ってしまう。


彼もなんでこんな私を好きになってくれたんだろうか?



目頭が熱くなり、顔を下に向けようとしたら先輩の長くて綺麗な指を両頬に添えられる。


「…顔上げて」

今にも泣きそうな顔を見られたくなくて力を込めた。
けど氷室先輩に半ば強引に顔を上げられて仕方なく彼に従う。

「そんなに自分を卑下して何になる?」

「…だって、先輩」

「だってじゃない。俺も敦も今の君を好きになったんだ。…それに敦のみならず俺の気持ちまで蔑ろにしようというのか?」

「…え?」

さっきとは裏腹な厳しい先輩の言葉。
けど誹謗中傷ではなく私の為に叱っているのが充分伝わってきた。
彼はただ優しいだけの人じゃないんだね。

「敦は気に入った奴にしか懐かないよ。それにあいつ、いつもナナちゃんの事を楽しそうに俺に話してたんだぜ」

「ホントですか、先輩?」

「あぁ、嘘をつく筈がないだろ。だから君はもっと自信を持っていいんだよ?」

あぁ、もうだめ。そんな事言われたら私…。

また目頭が熱くなる私を他所に氷室先輩はまた優しく私に言い聞かせた。


「君にとって敦は大事な友達なのに、俺を選んでくれて本当にありがとうな。敦の分までナナちゃんを大切にするから…」


まるで少女漫画の主人公になったみたいなキザな台詞に、いつの間にか一筋の涙が両頬に伝わっていく。


そして次の瞬間、私にとって全く信じられない行動を先輩はやってのけた。

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