第3章 譲れないマシュマロ【氷室辰也&紫原 敦】
ー氷室ENDー
納得するまで目を瞑り私は心に問いかけると、自然と氷室先輩の手を握り返した。顔を上げると先輩の優しくて麗しい微笑みが私に真っ直ぐ向けられていた。
「…ありがとう、俺を選んでくれて。君に飽きられないようにしなきゃな」
「そんな、寧ろ私の方が努力しなきゃですよ…」
「はは、君はありのままでいいんだよ…?」
先輩の言葉があまりにも優しすぎて余韻に浸っていた私はふと紫原君の顔を確認しようと自分の目線を上げる。
彼は私達をただ、無心に見つめていた。
「あ、ごめんなさい、紫原君……!」
必死で謝っても、もう紫原君はそっぽを向き今まで以上に素っ気なかった。
「…いいよ、謝んなくて。ほら、さっさとどっか行けし」
気のせいかもしれないけど、彼が今にも泣きそうになっていた。それが私の良心をグサリと突き刺しかなり痛い。
彼はどっかへ行けと命令したにも関わらず、私達を置いてこの場を去る。
「ま、待って!紫原君!っ!?」
私は一人で帰ろうとした紫原君を追いかけようとすると、氷室先輩は私の腕を掴み自分の方へと寄せる。
「いけない子だね、君は。今フった相手にどんな言葉を掛けるつもりだったんだい?」
氷室先輩が私に鋭い視線を向けて諭す。
そうだ、私は氷室先輩を選んだんだ…。だって紫原君の事どうしても友達以上に見れなかった…。
私は目を俯きながら氷室先輩の鋭い質問に答える。
「…私、紫原君にそれでも友達でいたいと、言おうとしました。やっぱりムリですよね…?」
先輩の事が好きなはずなのに、願いが叶って嬉しいはずなのに。
けど紫原君とは今までみたいに普通に話せなくなるのが嫌だった。
戸惑う私を先輩は優しく抱き締めてくれた。
「…ナナちゃん。君が敦と仲良くなれた訳がわかる気がするよ」
てっきり責められると思ってたから私は「え…?」と言い、面を喰らった顔で氷室先輩を見上げる。
そんな私を氷室先輩は柔和な眼差しを向け、微笑みを向ける。
「君は凄く優しい素敵な女性だ。敦は捻くれてるから君の優しさに癒されていたんだろうな…」