第3章 譲れないマシュマロ【氷室辰也&紫原 敦】
「…室ちんじゃん。一体何の用?」
「あぁ、ナナちゃん見なかったか?それに敦、さっきまで海で泳いでただろ?」
室ちんこそ、さっきまで女の子達に囲まれてなかったっけ?
けど、そいつら押し退けてまでここに来たのか。
めちゃくちゃイケメンの癖して本当に優しいもんなー。
いや、室ちんは優しいけど興味のない女の子にここまで面倒を見ようとはしないはずだ。
もしかして、ナナちんの事好きなの?
もしそうなら俺は余計にさっきの事を言いたくない。だから都合の悪い部分ははしょった。
「…ナナちんが1人でいたから、俺海から上がってカキ氷あげたんだけどなんか泣いちゃって、あそこの岩陰に隠れちゃったんだよ」
室ちんは俺を疑いまくりでしかめっ面して、俺を睨む。
流石、エレガントヤンキー。
アメリカで自然に身についてしまった眼光はいくら俺でもちょっと怖い。
「敦、お前泣かしたのか?」
「ち、ちげーし!」
本当は俺が泣かしたようなもんだけど、室ちんにだけは言いたくなかった。
だから俺は去勢を張る。
「じゃあ、何でカキ氷あげただけで泣くんだよ?」
室ちんの鋭い突っ込みに苦虫を噛んで黙る俺。
そんな俺に痺れを切らして室ちんは俺に背を向けて、ナナちんのいる岩陰に向かおうとした。
「言いたくないならいい。兎に角ナナちゃんのところへ俺は行くからな」
俺は室ちんの言葉に目が覚める。
それにナナちんに室ちんの話をするとすげー食いついてきたことをここで思い出した。
俺は直接あの子の口から室ちんの事が好きとは聞いたことないけど、このまま室ちんに行かせたら、ナナちんはきっと…。
そんなの嫌だし!!負けたくねーし!!
一緒にいた時間は俺のがなげーし!!
俺は彼女の元へ向かおうとする室ちんの左腕を掴み、立ち上がる。
「…待ってよ、室ちん。俺も行く」
「じゃあ、彼女のとこへ早く行こうか」
室ちんが不敵に微笑むもんだから、マジ癇に障る。
けど今はナナちんが優先だから、ヤツと一緒に彼女の元へ向かった。