第3章 譲れないマシュマロ【氷室辰也&紫原 敦】
すぐ食いつくかと思ったけど、俺を見て驚くだけでなかなかカキ氷を食べようとしない。
だからあえて俺が一足先に食べちった。
「んー。結構泳いできたし、疲れたから一休み〜。それより、カキ氷好きっしょ?食べなってー。」
俺がレポーターみたいに美味しそうに頬張っているとナナちんが怪訝そうに俺を見つめる。
「紫原君が食べ物分けるなんて珍しいじゃない。一体どうしちゃったの?」
確かに一度も俺は他人に食べ物をあげたことがない。
だから、驚くのも無理ないか。
だけど、好きな子(多分)に言われると今までの自分が恥ずかしくて目を俯いてしまう。
「…だって、ナナちんいつもお菓子くれっから。そのお礼〜。」
しばしの沈黙が訪れる。その時間が何故かもどかしかった。
「そうね、いつもあたしがあげてばっかだし。じゃあ遠慮なくいただきまーす!
…うーん、んまぁい!!ありがと、紫原君!」
ナナちんがようやくかき氷を口に運び、子供のように無邪気に笑う。
ここに来て初めて笑顔を見せてくれて俺は自分でもよくわからないけどなんだか顔が綻んでいた。
「でしょ〜?やっぱりナナちんは甘い物に目がないね〜」
「だって、好きなんだもん」
口を尖らせちょっといじけるナナちん。
悪口を言ってるわけじゃないのに、なんでそんな顔をするのかはよくわかんないけどそれがちょっと面白い。
ナナちんといるの、俺は楽しいと思うのになんで女バスの子は置いてけぼりにするんだろう?
女って訳分かんねえし。
俺はナナちんに普段はしない締まった表情で一番の疑問を尋ねた。