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君がいた夏

第1章 遠く離れたって…【虹村修造】


「…ねぇ、シュウ?」

ナナは花火からそっと俺の方へ顔を向ける。
暗くてよく見えねーけど、なんとなく目を潤わせているのはわかった。


「何だ?」



「…来年も一緒に花火見に行きたいな」



…そんな顔で言うんじゃねえよ。言いにくくなるじゃねーか。


震える声で俺の顔を覗き込み、目を潤わせてハニカミながら言うナナに俺は胸が痛み、唇を噛んだ。

「…シュウ?」


今日何のためにこいつを誘ったんだよ、俺は。早く言わねーと。

ナナに催促されてやっと決心が着いた俺はしっかりと彼女を見つめる。


「…なあ、ナナ。俺来年は日本にいない」


ついに言ってしまった…。できれば俺だってお前と花火見たかったさ。



ナナは目を見開いて一瞬何が起きたかわからないとでも言いたげな顔で俺を見つめる。


「…!う、うそ!どうして!?」

やっと現実に戻ってきたらしい彼女は血相を変えて俺のTシャツの裾を掴んできた。


「…親父の容体が悪化しちまって、アメリカまで行かなくちゃなんねーからだ」


アメリカ行きが決まったのは最近だ。親父の主治医から言い渡された時、俺は親父がそこまで悪くなってたのかとかなりショックを受けた。

と、同時にナナと何年も会えなくなってしまうことが頭によぎる。
俺がいない間にこいつに彼氏ができたら、なんて考えるとはらわたが煮え繰り返りそうだった…。

今日までどうするか頭を抱えて悩み、ようやく出た結論はこうだ。



俺には親父を1人にするなんてどうしてもできなかった。だから、ナナには今日思いを伝える。たとえ、どんな結果であろうと…。



ナナは涙を目に溜めて今にも泣きそうな顔をするが、必死に堪えていた。そんな顔を見ると余計に心が痛む。



「…そっか。それじゃ仕方ない、よね。…おじさん、良くなると、いいね」




全く、今にも泣きそうなくせしてなんで人の事心配してんだよ。それによ、そんな顔されたら、期待しちまうじゃねーか…。



彼女の震える声と体に、俺は耐えられなくなり強く抱きしめる。


「…シュウ?」



そして、彼女の耳元で囁いた。


「いーか。一回しか言わねえから、耳かっぽじってよく聞けよ?」





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