第2章 爪痕【赤司征十郎】*裏あり
彼女がステージの上に立ち、俺はその正面の椅子に座る。
彼女はバイオリンを顎に当てて挟み、弓と弦をこすり合わせ音色を出す。
彼女も俺と同じように幼い頃から続けているのか、動きに無駄がなくしなやかで洗練されていた。
微笑みを浮かべながら楽しそうに、時たま目を閉じて弾く姿は様になっていてとても美しい…。
曲を聴きながら少しずつナナが思い出から蘇っていく。
『ふふ、昨日は爺やに一喝したくせに滑稽だな。』
『な!?お前は…!?』
不意にもう1人の俺が出てきて俺は冷や汗をかいたところで曲が一通り終わる。
俺はあまりの演奏に拍手をすると、彼女は恥ずかしそうに目を俯いた。
「とても素敵だったよ、葛城さん」
「ありがとうございます。でもまだまだですよ」
俺に褒められるだけで頬を赤く染め、目を俯く初心な彼女。
だけど段々彼女と話すうちにナナと重なってきて危ない気持ちが走り、もう1人の俺が俺に問いかけてきて頭が痛くなり無意識に手で押さえた。
「赤司君!?」
***
『何を戸惑っているんだい?もうナナは手に入らないんだ。代わりに似てる彼女をナナと思って愛せばいいじゃないか?』
『やめろ!彼女はナナとは別だ!それに彼女を俺の勝手な願望に巻き込むなんて、紳士として恥ずべきことだ!』
『そんな綺麗事を言って、本当はナナと無意識に重ねているくせに。
いいじゃないか、この初心なナナを僕好みに教育していくのも。それに彼女と結婚すれば本当のナナとも家族になれるんだぞ、悪い話じゃないだろ?』
『…辞めろ、辞めてくれ!!お前はもう出てくるな!!それに彼女はナナじゃない!!』
『お前はもう少し素直になれ。しょうがない、ここは僕の出番だな』
『辞めろ、辞めろおぉぉぉ!!』
***
ついに俺の意識は欲望に負けて、もう1人の俺に支配されてしまった。