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君がいた夏

第2章  爪痕【赤司征十郎】*裏あり


『…あの坊っちゃま』

爺やは恐る恐る俺に声をかけるが、多分慰めようとしてるのだろう。そんなの俺が惨めになるだけだし、爺やに優しく言い聞かせた。


「…爺や、いいよ。俺が軽率だったんだ」


『違います!!…あの、余計なお世話かもしれませんが、彼女には坊っちゃまと同い年の妹がいらっしゃいます。』


「妹?」

俺はつい食いついてしまい、眉をピクッと上げる。そして爺やは淡々と話を続けた。


『はい、彼女はお姉様と顔がそっくりで、育ちも家柄もとてもいいお嬢様です。しかも、洛山に通っています。旦那様もきっと気に入ってくれるでしょう』


顔がそっくりで、育ちも良くて、洛山に通っているだって…?


そういえばナナの笑い方は俺の母親を彷彿させるほど上品だったし、仕草と雰囲気は明らかに一般人の女とは違っていた。



だけど、そんなの気休めに過ぎないだろ?
いくらナナとそっくりとは言っても別人じゃないか。
それにナナでなければ全く意味がない!!


俺は爺やに当たりそうになるも、そこは抑えて彼に落ち着いた口調で言い聞かせた。


「…調べてくれたところ悪いが、俺はナナ以外に興味はないんだ」


まだ彼女に夢中な俺に爺やは声を荒げ叱る。

『坊っちゃま、彼女はもう人妻なんですよ!?好い加減頭を冷やして下さい!』


俺の為に怒ってくれているのは痛いほどわかるが、それでも気持ちは収まらない。それにナナとまだ見ぬ妹を重ね合わせようとしてるのが何よりも気に食わない。

俺もつられて声を荒げてしまう。


「そんな事は分かっている!!けど、爺やこそナナと妹を重ね合わせようとするなんてどうかしてるぞ!!」


やはり図星だったのか、爺やは何も言い返してこなかった。
俺はそんな爺やに失望し、電話を切る。


そして、このどうしようもなくやり場のない気持ちに苦虫を噛んだ顔をし、握り拳を作ってただ彼女の名前を一人虚しく叫んでいた。


「…ナナ、ナナ…!」




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