第2章 爪痕【赤司征十郎】*裏あり
「…ナナ?」
俺は目が覚めて手探りで隣にいるはずの彼女を探す。
だけど何も反応がないし、人らしき感触もない。
俺は眠い目を擦って無理矢理目を開けて隣を確認した。
「…ナナ!?いない!!」
もう行ってしまったのか…?
だけど、まだ何処かにいるのかもしれない。俺は部屋中を探し回る。
洗面所には俺の服が綺麗に畳まれており、ナナの服や荷物はもうどこにも見当たらない。
これで確信した、ナナはどこにもいない。
ホテルのフロントに電話すると、彼女はチェックアウトを済ませてもう空港に向かったと言う。
その言葉を聞き、人生で1番のショックを受け俺は静かに受話器を置いた。
俺はこうなる事を予感はしなかったわけじゃない。
だけど、それ以上に虚しくて悲しくて、ベッドのシーツに残った彼女の香りを懸命に嗅いだ。
あの夜を忘れたくなくて、夢だとは思いたくなくて夢中でシーツに顔を押し付けた。
「…ナナ、ナナ、ナナ!!」
もう去年のWCで涙を流すのは懲り懲りだったのに、彼女の名前を叫んでいたらとうとう涙が俺の頬を伝ってしまう。
…ナナ。やはり君にとって俺達は一晩だけの関係に過ぎなかったんだな。
だって君は1度も俺を好きとは言ってくれなかった。
けど、さよならも言わずに行ってしまうなんて酷いじゃないか。せめてそれだけはメッセージやらで残してくれても良かったのに…。
初めて愛した女は俺の腕をいとも簡単にすり抜けて消えて行った。
ただ、彼女が残してくれたものは一つだけある。
それは、俺に跨った時につけたのであろう、俺の腰に食い込んだ生々しい赤い爪痕だった…。
→その後