第2章 爪痕【赤司征十郎】*裏あり
「…葛城さん、貴方が落ち着くまで、こうしてますから。思う存分泣いて下さい」
俺は吐息混じりに優しく囁く。
女はこういうのが好きだと実渕から聞いたことがあるからな。
「ありがとう、赤司君。…本当に優しいのね」
ナナも負けじと俺の耳元に甘く囁いてきた。彼女の綺麗なトーンの声が耳から体全体に広がっていくのを感じて心臓が少し煩くなった。
…俺としたことが。慰めるつもりが逆に翻弄されているじゃないか。これが大人の余裕なのか。
酒で酔ってるせいかもしれないが、今ナナは俺の胸元に身を預けてくれている。それだけでもよしとすることにした。
俺は不意に彼女を見ると目が合い、涙を浮かべながら俺を上目遣いで見上げていた。
そんな顔をされたら、そそられるだろう。…もしかして誘っているのか?
彼女はもう大人だし、美人だし、このような場は慣れていてもおかしくない。初々しいナナが見れないのは残念だが。
俺達は暫く見つめ合う。先に静寂を破ったのは俺だ。
「…葛城さん。いつ帰国するんですか?」
「…明日の朝の便で帰るわ。赤司君は?」
「俺はあと一週間ほどいます」
「そう、楽しんでね」
微笑むナナに対し、俺も微笑み返すが内心は違う事を考えていた。
すると、今日しかナナと一緒に過ごせないのか…。それに、下手したらもう会えないかもしれない。
そう思うと、無性にナナを抱きたくなる衝動に駆られそうになる。
けど、まだ彼女の事を探る必要があったし、冷静を装う。
だけど、それはナナによってすぐ壊れてしまう。