第3章 はらり
あれは半月程前だっただろうか?
沖田さんへの想いに煮詰まって、辛くて辛くて仕方がなくて……。
三番組の巡察に同行した時、衝動的に斎藤さんに問い掛けてしまった。
「あの……斎藤さん。」
「何だ?」
「可笑しな事を伺いますけど……
ご自分が全く気にしていない相手から、勝手に想いを寄せられるのって…
ご迷惑でしょうか?」
「……何の話をしている?」
「あっ…いえ、あの…ですね。
斎藤さん達のように常に自分を律して、
戦いの中に身を置いている人には自分に邪な想いを抱いている存在なんて、
邪魔なだけなんじゃないかって思って…。」
斎藤さんは暫く考えるような仕草をしてから
「……いや。迷惑という事はない。」
と、言ってくれた。
「常に自分を律し、血生臭い戦いの中に身を置いているからこそ、
自分を無条件に慕ってくれる存在程有り難いものはない。」
静かだけれど、これは確かな事だと信じさせてくれる斎藤さんの力強い言葉に私は涙が溢れそうになって俯いてしまった。
「総司の事は昔からよく知っているが、あのあいつが一点の曇りもない
無邪気な笑顔を見せるのは……近藤局長とあんただけだ。」
「…そうですか。」
私は嬉しくなって斎藤さんを見上げると、斎藤さんは横目で私を見つめて微笑んでいた。
「………って、あのっ……私、沖田さんの名前…出しましたっけ?」
「あんたを見ていれば分かる。」
……分かっちゃうんだ。
真っ赤になって目を逸らす私に斎藤さんは穏やかな声で言った。
「それに、あんたが総司に抱いている想いは邪ではないだろう。」
あの時の斎藤さんの言葉にどれ程励まされたか分からない。
報われなくてもいい、これからもずっと沖田さんを好きでいようと思えたのだ。
今、沖田さんに羽交い締めにされておろおろしている私に、斎藤さんの優しい一言が染み入った。
「良かったな……有希。」
私はそっと瞬きをして、心の中で斎藤さんにお礼を言った。