第3章 はらり
近藤さんと土方さんが居ない事も手伝ってか、その日の夕餉はいつにも増して賑やかだった。
永倉さんと平助君はいつも通りのおかずの取り合い。
原田さんはお酒を飲みながら、呆れた様子でそれを見ている。
斎藤さんはきっちりと正座して黙々と箸を進めている。
沖田さんは…………。
ふと沖田さんに目を向けると沖田さんも私を見ていて、目が合うと悪戯っぽく微笑んだ。
私は赤面して俯いてしまう。
「あのね……」
突然沖田さんが口を開いた。
「皆に聞いて欲しいんだけど……」
急にその場が静まって、皆の視線が沖田さんに集まる。
沖田さんはそれを確認すると、一際大きな声で言った。
「有希ちゃんがね、僕のものになったんだ。」
「………ええっ!」
一瞬の間の後、最初に声を上げたのは……私だった。
「ええって…有希ちゃん?……違うの?」
沖田さんが訝しげに私を見る。
「あ……いえ。……違いません…けど……」
「だよね。……はあ、良かった。」
そう言って沖田さんは大袈裟に胸を撫で下ろす仕草をしてみせる。
「うおおおおおおおっっ……!!」
次に声を上げたのは永倉さん。
「総司っ、そりゃねぇよっ!
俺だって…俺だって有希ちゃんを狙ってたのによぉっ!!」
そう言ってぐしゃぐしゃと頭を掻き毟る。
……そ、そうなんですか?永倉さん?
「あーあ。総司に先越されちまったかぁ………。
なあ、有希……。
総司に泣かされるような事があれば、すぐに俺んとこ来いよ。
俺だったらお前を絶対泣かせたりはしねえから………な…。」
そう言って原田さんは私を見つめて艶っぽく微笑んだ。
……ありがとうございます。原田さん。
「ね、これだから言っておかなくちゃって思ったんだよねぇ。
皆が有希ちゃんを狙ってるんだからさぁ。」
沖田さんはくすくす笑って、後ろから私の肩に腕を回した。
「あ…あのっ、沖田さん…」
「ん~?」
唇と唇が触れそうな距離で後ろから顔を覗き込まれて、心臓が破裂しそうな程激しく鼓動した。
沖田さんの顔が近過ぎて、とても見ていられない。
ふと斎藤さんの方を見やると、斎藤さんはとても優しい視線で受け止めてくれた。
実は、斎藤さんだけは私の想いを知っていたのだ。