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薄桜鬼~君ノ記憶~

第3章 はらり


結局沖田さんは土方さんにしっかりと叱られたらしい。

私がごめんなさいと謝ると「有希ちゃんのせいじゃないでしょ」と言って、くしゃくしゃと頭をなでてくれた。

沖田さんの話では、今晩から近藤さんと土方さんのお二人で大坂へ出掛けられるので、お仕事に関する細かい指示を土方さんから受けたのだとか。

……今晩からという事は夕餉は必要ないのかな?

確認しておいた方が良いと思い、私は土方さんのお部屋に向かう。


「土方さん、有希です。」

「入れ。」

「失礼します。」

障子戸を開けると土方さんは文机に向かったまま「何だ?」と聞いた。

「あの…今晩から大坂へお出掛けと聞いたので、夕餉の支度はどうしましょうか?」

土方さんは手に持った書類から目を離さず、

「ああ…そうだな。いや、俺と近藤さんの分はいらねえ。
 持って出られるように握り飯でも用意しといてくれ、二人分な。」

と言った。

「はい。分かりました。」

そう言って部屋を出て行こうとした私に土方さんが声をかけた。

「有希……」

「はい。」と、私は振り向く。

土方さんは身体を半分こちらに向けて言った。

「隊士でもないお前にいろいろ面倒かけてすまねえな。
 ………本当に助かってる。」

いきなりの感謝の言葉に面食らったけれど、私は素直に嬉しく思えた。

「俺は近藤さんと暫く留守にするから、あいつらの事頼むな。」

「はい。もちろん。」

「まあ、あいつらがまた馬鹿やらかさねえように、
 しっかり見張っててくれや。」

新選組のあの幹部さん達を私がどうにか出来るなんて土方さんも思ってはいないだろうけど、その物言いが可笑しくてくすっと笑ってしまった。

「土方さんもお気をつけて。」

「ああ。」


土方さんの部屋を出て、足取りも軽く勝手場に向かう。

私は嬉しくて仕方がなかった。

何も出来ない自分が此処に居ていいのかと悩んだ事も一度や二度じゃない。

迷惑ばかりかけて、皆の力にはなれない自分をいつも悔しく思っていた。

でもさっきの土方さんの言葉で、ほんの少しでも皆の役に立っているのだと実感出来た。

もっと頑張ろう。

もっともっと皆に必要とされる存在になりたい。
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