第6章 十六夜涙
どれくらい時間がたっただろう。
いや、きっと大して時間なんて過ぎてなかったと思う。
「平助……入るぞ。」
そう言って一君が静かに俺の部屋に入って来た。
……総司の代わりに俺を斬りに来たのか?
それとも腹を詰めさせるつもりなのか?
どっちにしても俺は構わないと思った。
それだけの事を俺はやっちまったんだから……。
でも一君は俺から一間位離れた場所に腰を下ろして、何も言わずにただ目を閉じている。
じりじりとした時間に耐えられず、俺の方から口を開いた。
「…………何だよ?何しに来たんだよ、一君?」
苛つきを隠しきれない俺の物言いを気にするでも無く、一君はいつも通りの落ち着き払った態度で
「……監視だ。」
と一言だけ告げた。
俺はかっとして一君に噛み付く。
「監視って何だよっ?俺が逃げるとでも思ってんのか?
俺は逃げも隠れもしねえよ。
だから…さっさと俺を斬っちまえばいいだろっ!!」
一君は目を開けて俺を見たけれど、それでも何も言わない。
その態度に俺の苛々が頂点に達した時…………
闇を擘くような有希の悲鳴が屯所中に響き渡った。
俺は息を飲んで、身体を硬直させた。
一君は苦し気に眉をひそめている。
尋常じゃない悲鳴が二度三度と続いて、俺は耐えられなくなり頭を抱えるようにして耳を塞いだ。
……突然ぴたりと有希の悲鳴が止まって、また虚しい静寂が戻って来る。
もう俺は限界だった。
また膝を抱え、その膝に顔を埋めるようにして……有希への想いがぽつりぽつりと口をついて出た。