第5章 散らない花
僕は羽織を脱ぐ手も擬かしく有希ちゃんに近付くと、その酷い姿を目の当たりにして唇を噛み締めた。
手首を縛り上げていた帯を解き、脱いだ羽織で有希ちゃんの全身を隠すように包んで、壊れ物を扱うみたいにそっと抱き上げた僕に一君はまた背を向けて言う。
「お前の部屋へ連れて行け。
此処に置いておくのは………酷過ぎる……」
確かに……畳に残る幾つもの染み、掻き毟った傷痕………
僕だってこんな所に有希ちゃんを寝かせておくなんて御免だ。
有希ちゃんを大事に抱え込み僕は自分の部屋へ行こうとして、ずっと背を向けたままでいてくれる一君に告げた。
「一君…………ありがとう………」
僕の部屋で有希ちゃんを布団の上に横たえてからすぐ、一君が水を張った桶と清潔な手拭いを何枚か持って来てくれた。
お礼を言ってそれを受け取り、僕は有希ちゃんの顔も身体も全部……平助の痕跡が何一つ残らないように丁寧に拭き清める。
それでも………どうしても残ってしまうのは………
手首の鬱血痕、胸元に乱暴に散らされた数多の紅い印……
口の端にはまだ微かに血が滲んでいて、頬の痣は……殴られたの?
こんなに傷付いて………こんなに傷付く程……抵抗したんだ。
「………ち……っくしょう……」
僕は悔しくて、自分の無力さが情けなくて………
でもこんな傷だらけの有希ちゃんが愛おしくて堪らない。