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薄桜鬼~君ノ記憶~

第5章 散らない花


僕と一君は何事も無く、土方さんから指示された仕事を終わらせて屯所に帰って来た。

思っていたより早い時間に戻れたから、僕は羽織を脱ぐ間も惜しくてその足で有希ちゃんの部屋へ向かう。

……まだ起きてるかな?

ううん、もう眠っていたとしても有希ちゃんの顔が見たくて仕方なかったんだ。

いそいそと有希ちゃんの部屋の前に立って、障子戸に手を掛けた僕は中から聞こえてきた声に動きを止めた。

…………この声は……平助?

瞬間、かぁっと頭に血が上り、思い切り障子戸を開いた僕の目に飛び込んで来たのは、有られもない姿の有希ちゃんと……その側に屈み込んでいる平助。

僕は最初、有希ちゃんに裏切られたんだと思った。

僕を裏切って、平助と情事を楽しんだんじゃないか……って。

でも有希ちゃんの両手は帯で縛り上げられ、頬には痣と血が滲んだ跡…

それを目にして全てを悟った僕の中に、平助に対する殺意がぶわっと一気に沸き上がり、自然に刀に手が掛かっていた。

僕の足元で平助は額を畳に擦り付けて「斬ってくれ」「殺してくれ」と喚いてる。

ふうん……覚悟は出来てるんだね。

そうだよね、殺されて当然だよね。

僕の有希ちゃんをあんな酷い姿にしたんだから………。

刀を抜こうとした瞬間、僕の右手は何かに力強く押し留められた。
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