第1章 花びらの刻
やっぱり沖田さんは中庭に居た。
縁側に腰掛けて、気持ち良さそうに日向ぼっこをしている。
陽の光を浴びてきらきらと輝いている栗色の髪。
島原の芸妓さんでも嫉妬してしまいそうな端正な横顔。
私は少しの間見とれてしまったけれど、ふと我に返って沖田さんに近付きながら声をかけた。
「沖田さん…土方さんがお呼びです。
お部屋に来るように…って………っ」
その瞬間、私は小石に蹴躓いて身体がぐらりと傾いた。
派手に転んでしまうと思い、痛みを最小限に抑えようと身を固くしてぎゅっと目を瞑る。
でもいつまでたっても痛みはやって来なかった。
「危なっかしいなぁ……
これだから有希ちゃんからは目が離せないんだよねぇ。」
耳元で沖田さんの優しい囁きが聞こえた。
沖田さんが傾いた私の身体を受け止めてくれていたのだ。
私は沖田さんの膝の上で、腕の中にすっぽりと収まっていた。
やっぱり沖田さんは新選組の幹部さんで………大人の男の人だ。
細い体躯ではあるけれど、鍛え上げられた腕にも胸にもしなやかな筋肉が付いていて、私はそこに触れている心地好さに惚けてしまった。
…あれ、今…「目が離せない」って……
もしかしたら……ううん。きっと違う。
私が望んでいるような意味ではなくて、沖田さんにしてみたら私は妹みたいな存在で…………
「好きだよ。」
突然告げられた言葉に私は自分の耳を疑いつつ、沖田さんの顔をそっと見上げた。
「僕は君が好きだよ。」
沖田さんは私の目を見つめて、もう一度言ってくれた。
……………顔が熱い。
きっと私の顔も耳も真っ赤になっている。
凄く嬉しくて、でも凄く恥ずかしくて…。
なのに沖田さんの優しい笑顔から目が離せない。
目頭が熱くなって、じわりと視界が滲んだ。
「ね…有希ちゃんは?僕の事、好き?」