第1章 花びらの刻
沖田さん…
沖田さんの瞳に私はどんな色で映っていますか?
中庭で掃き掃除をしている私の目線の先には、近所の子供達と楽しそうに遊ぶ沖田さんが居る。
どちらが子供か分からないような無邪気な笑顔の沖田さんを見ていると、何故か私まで幸せな気持ちになって自然と笑みが溢れてしまう。
「有希ちゃん!
有希ちゃんもこっちにおいでよ。一緒に遊ぼう。」
いきなり沖田さんが私に向かって、おいでおいでと手招きした。
私はびっくりして手に持っていた竹箒を落としてしまう。
「どうしたの?ね…おいでよ。」
私は落とした竹箒を拾い上げながら
「あ…あのっ…私っ、夕餉の支度があるので…しっ…失礼しますっ!」
と、しどろもどろに言って、そそくさとその場を後にした。
沖田さんを見つめていた事に気付かれただろうか?
せっかく誘ってくれたのに、素っ気無く断ってしまって気を悪くしていないだろうか?
声を掛けてくれたって事は嫌われてはいないのかな?
等々、複雑な気持ちを抱えて小走りに勝手場に向かう。
中庭を離れる時、沖田さんの「やっぱり嫌われてるのかなぁ…」という呟きが聞こえたような気がしたけど……それはきっと空耳だよね。
翌日、勝手場で朝餉の片付けをしていると土方さんに声を掛けられた。
「有希、総司に俺の部屋へ来るように伝えてもらえねぇか?」
「はい。分かりました。」
「忙しいとこ悪いな。」
「いいえ。すぐ伝えてきますね。」
土方さんが呼んでいる。ただそれを伝えるだけなのだけど、沖田さんと会話出来る機会を与えられた事が嬉しくて、私はいそいそと沖田さんの部屋へ向かった。
「沖田さん…」
呼び掛けても返事がない。
「…沖田さん、開けますよ。」
そう言ってそろそろと障子戸を開けてみたけど、部屋は空っぽで沖田さんの姿は無かった。
少し考えて、私はすぐに思い当たった。
きっと中庭だ。
沖田さんはよく中庭に居る。
昨日のように子供達と遊んだり、一人で日向ぼっこしていたり…。
私はそんな沖田さんをいつも見つめていた。