第1章 花びらの刻
声を出したら涙が溢れ落ちてしまいそうで、私は無言でこくこくと何度も頷いた。
沖田さんは満足気に微笑んで
「駄目だよ。
有希ちゃんの声でちゃんと聞かせて。」
と、意地悪な事を言う。
「私も…好きです。ずっと沖田さんの事、見ていました。
……ずっとお慕いしていました。」
「ありがとう…有希ちゃん。」
結局ぽろぽろと大粒の涙を溢す私の頭を抱えるように、沖田さんは優しく抱き締めてくれた。
沖田さんの少し速い鼓動が聞こえる。
………もしかして沖田さんも緊張しているの?
自分が想っている人が、同じように私を想っていてくれた。
これ以上無い幸せを全身で受け止めながら、沖田さんに身を委ねていた私はとても大切な事を思い出した。
「沖田さんっ…」
沖田さんの胸を両手で軽く押し返して顔を見上げる。
「………どうしたの?」
沖田さんは優しい微笑みを湛えたまま、私の顔を覗き込んで聞き返した。
「あのっ……土方さんがお呼びです。
お部屋に来るようにって…。だから行かないとっ……」
ああ…こんな大切な事を忘れていたなんて…。
土方さんを待たせてしまったら、沖田さんがお説教されちゃう。
そう思って私は必死に訴えたのだけど、沖田さんは一瞬きょとんとしてから
「………ぷっ
あはっ………あははははははは……………」
と、何故かとても楽しそうに笑った。
「あの……笑い事じゃないんです。土方さんが…」
私は困ってしまってもう一度ちゃんと伝えようとすると、沖田さんはまたふわりと私を抱き締めて………
「……いいよ。
土方さんには僕が叱られればいいだけなんだからさ。
それよりも、もう少しこうしていよう。」
そう言って私の髪にそっと口付けた。
沖田さんの温もりと匂い…それとこれ以上には無いであろう幸福感に包まれて私は瞳を閉じた。