第4章 闇の彼方まで
平助君は少年のような体躯で、背丈も私と大して変わらない。
永倉さんや原田さんのように背も高くて厚い胸板で腕も太い……如何にも男の人らしい体格を目にしていれば自然にそれと意識するけれど、正直平助君に対してはそう感じた事は無かった。
……だけどやっぱり平助君だって男の人なんだ。
私が勝手に自分と同じようだと思い込んでいただけで、実際にはまるで敵わない。
それに気付いた時……この時になって、私は初めて恐怖を覚えた。
怯えた目で平助君を見つめると彼の目は何だか虚ろで、私を見てはいるのだけれど、でももっと遠くを見ているようでもあり……
「……平助君?」
私はそっと問い掛けてみる。
「…………何でだよ?」
「……え?」
「……何で…総司なんだよ?」
「…………」
「何で総司なんだよっっ!!
俺だって、ずっと………俺の方がっっ…」
「……んんっ…」
平助君の唇がいきなり私の唇を塞いだ。
私は何とか逃れようと平助君の胸を拳でどんどんと叩いてみるけれど、平助君の身体はびくともしない。
息苦しさに首を振ってみても、平助君も顔の角度を変えて逃してはくれなかった。
そのうち唇の隙間から平助君の舌がぬるりと差し込まれ、私の舌を絡め取り、吸い上げ、そして口腔を貪るように激しく動く。
くちゅくちゅと唾液が混ざり合う音が響き、私の意識が朦朧とし始めた時、唐突に唇が解放された。
恐怖と恥辱で顔を背け涙ぐむ私を見て、平助君が動揺しているのが分かる。
「あ……ごめ………ん」
平助君は私の腰の辺りに跨がったまま上体を起こした。
生まれて初めての口付けは漠然とではあったけど、それでも当たり前のように愛する人と交わす事になるだろうと思っていた。
そしてその相手が沖田さんになると確信出来た矢先に、こんな形で奪われてしまった事が悔しくて…悲しくて…。
そして何故か沖田さんに申し訳なくて……私は無意識に呟いた。
「………ごめんなさい………沖田さん………」