第4章 闇の彼方まで
それでも目を閉じていれば少しうとうととしかける。
その時、急に部屋の外でかたんと音が聞こえて、私は緊張しながら上体を起こし声をかけた。
「……誰か、居るんですか?」
相変わらず雨が瓦を打つ音が響き続けている。
暫くの間の後、声が聞こえた。
「有希……ちょっと、いいか?」
「…平助君?」
私は素早く布団から出て障子戸を開けると、そこには雨でずぶ濡れになった平助君が俯いたまま立っていた。
「平助君、どうしたの?」
「あ………いや………」
「とにかく中に入って。身体拭かないと。
そのままじゃ風邪ひいちゃうよ。」
今思えばこの時の平助君の様子がいつもと違っていた事、こんな夜中に寝間着のまま男の人を自室に入れた事………
悔やんでも悔やみ切れないのだけど、その時の私はさっきまで素っ気無かった平助君が会いに来てくれた事がただ嬉しくて、躊躇無く彼を部屋に招き入れた。
平助君を座らせてから私は手拭いで彼の身体を拭いた。
長い髪もぐっしょりと濡れていた平助君は、身体を抱えて小刻みに震えている。
「平助君、大丈夫?寒くない?」
「……ああ。」
「永倉さんと原田さんは?一緒に帰って来たの?」
「あ…いや…新八っつぁん達はまだ呑んでる。」
「そうなんだ。」
平助君の髪も拭こうと私が手を伸ばした瞬間、
「…………有希っ。」
突然押し倒された。
平助君は両手で私の肩を畳に押し付け、これまで見せた事のない熱を持った視線を私に注ぐ。
「…ど、どうしたの?具合でも悪いの?」
「…………っ!子供扱いすんなよっ!!」
そう怒鳴ると、平助君の手は私の肩をぎりぎりと締め上げた。
「へ…平助君、痛いよ………離して。」
私は難なくこの状態から脱け出せると思って、平助君の手を退かそうとしてみるけれど……ぴくりとも動かなかった。