第4章 闇の彼方まで
その瞬間、平助君の目に怒りの色が過ると、私の寝間着の襟を掴んで乱暴に左右に拡げる。
「………っ……いやっ…」
「なあ………総司の名前なんか呼ぶなよ。
今、お前に跨がってるのは……俺なんだからさ。」
平助君の虚ろな声が聞こえた途端、首筋にちくりと針を指したような痛みが走った。
そこから胸元にかけて、何度も……何度も。
その度に私の肌に紅い跡が散らされていく。
まるで平助君がこれは自分の物だと印を付けるように…。
平助君の手が寝間着の帯に掛かっている事に気付いた私は、それを阻止しようと身体を捻り、四肢をばたつかせて抵抗するものの、組み拉かれてどうしても平助君の下から逃れられない。
思うように身体が動かせない苛立ちが、益々恐怖感を募らせ私は声を限りに叫んだ。
「助けてっっ………助けて助けてっ……っっ沖田さんっ………」
再び沖田さんの名前を口にしてしまった事を後悔する間もなく、鋭い衝撃が私を襲った。
……頬が焼けるように熱い。口の中に血の味が広がる。
殴られたんだ……そう気付いた時にはもう抵抗する気力は失われていた。
「大人しくしろよ……」
そう言って冷ややかな目で私を見下ろしているこの人は………誰なんだろう?
ぼんやりとした意識の中でそう思った。
こんな人………知らない。
きらきらした笑顔でいつも私を支えてくれた、お前の事は絶対に守るからと言ってくれた………
平助君に会いたい。
「血…出ちゃったな……」
そう言って彼は私の唇の端をべろりと舐め上げた。
その痛みと感触にぞわりと肌が粟立ったけれど、私はもう抵抗するのを止めた。
暴れても、泣いても叫んでも、きっとこの人は許してはくれないだろう。
それならばせめて早く事が終わるように耐えていた方がいい。
もう、逃れられないのだから………。