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薄桜鬼~君ノ記憶~

第3章 はらり


夕餉の片付けを終えた私は、夜の巡察に出掛ける隊士の皆さんを見送るのが日課だった。

今日は土方さんに指示を受けた沖田さんと斎藤さんが巡察に出る事になっていた。

……毎晩この見送りの時には不安で堪らなくなる。

やっぱり昼の巡察より夜の方が危険。

どうしたって悪事を企む輩は、昼より夜に行動するのが常だと思うから…。

ただ今日に限れば逆に、沖田さんと斎藤さんに出会ってしまうかもしれない不逞浪士の方が余程危険だと思うけど……。

「あーあ……。
 今夜くらいは有希ちゃんと一緒に過ごしたかったのになぁ…。
 一晩中一緒に居るのが有希ちゃんじゃなくて一君なんてねぇ。」

そう言って沖田さんは大袈裟に肩をすくめながら、浅葱色の羽織に袖を通した。

「有希ちゃん。
 今夜は土方さんに頼まれた仕事で遅くなっちゃうから、
 待っていないで先に寝るんだよ。
 今日はいっぱい泣かせちゃったし………疲れたでしょ?」

「……危ないお仕事なんですか?」

沖田さんは腰を屈めて、不安な気持ちを隠しきれない私の顔を覗き込むとにっこりと笑った。

「僕と一君が一緒で、危ない事なんてあるはずないよ。」

もちろん、それは分かっているのだけど………。

土方さんが沖田さんと斎藤さんの二人を向かわせるなんて、きっとかなり危険なお仕事だろうから…。

永倉さんも原田さんも…平助君だってとても強いけれど、その中でも沖田さんと斎藤さんはまた格段に強い。

沖田さんの言う通り、この二人ならば余程の事がない限り大丈夫だと思う。

……それでも向かってくる敵だって必死だ。

いくら沖田さんと斎藤さんでも怪我くらいはしてしまうかもしれない。

どうしても不安が拭い切れない目で私は沖田さんを見つめた。

「そんな顔しないでよ……有希ちゃん。
 出掛けられなくなっちゃう。」

沖田さんはちょっと困ったような顔をして、子供をあやすように私の頭をぽんぽんと叩いた。

「大丈夫だから。……いい子にしてるんだよ。」

「はい。……お気をつけて。」

ようやく私は少しだけ微笑む事が出来た。

「総司、行くぞ。」

斎藤さんに促されて、沖田さんは「じゃあね」と右手をひらひらさせながら出掛けて行った。

……どうか、何事もなく無事に戻って来てくれますように。
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