第2章 4月の風が靡く頃
「ただいま帰りました!」
「…!おかえりなさい」
待っていました、とばかりに私は玄関まで彼を迎えに行く。
「長い時間1人にさせてしまってすみませんでした」
どくんと心臓が跳ねる。
だって、私はそんなこと彼に言ったことがない。
寂しい彼の気持ちを汲み取ってあげられなかった悔しさが込み上げてくる。ごめんなさい、そう口にしようとした瞬間
「ルートさんが作った特製クーヘンですよ。一緒に食べましょう?」
私が何を言おうとしたのか察したのか、彼は優しい笑顔を浮かべて私の顔を覗いた。
以前アーサーさんから頂いた紅茶を淹れながら、隣でお土産のクーヘンを切る彼を横目で見ていた。
彼は私と同じように見えても、私よりずっと強い。
「よし、っと…。クーヘンの用意はいいですよ」
「紅茶もばっちりです。では…いただきましょうか」