第3章 4月の風が止む頃
彼は何も言わない、けれども分かる。
『私ではなく、彼が今日、消えてしまう』
「菊さん!聞こえているんでしょう?こっちを見てください!」
私まで涙を零しながら、どうしてもこちらを見ない彼の前に立って力強く両肩を掴む。
今、本心を告げる
「人ごみを避けて歩くように、…漂うように生きてきた私の…。そんな私の1つだけの、生きる理由が貴方と居ることならばもう、他は何もいりません。貴方さえいればずっと、ずっと笑って生きていけます!だから…」
消えないで、その声は涙にかき消されて届かない。
「菊さん、聞いてください これが最後です」
崩れ落ちていた私は彼の声に即座に顔を上げる
「私たちが出逢ったら、消える、のではなくて重なります。
貴方が"菊"のまま、私が"桜の花"ならば…
いつか、また逢えますかね?」
くしゃくしゃな笑顔の彼に、私は微笑み返す
「えぇ。きっと…」
そっと風が流れる
「そうですね、 …それでは、」
さようなら