第6章 壁外の現実
そう言ってコルネリアはテントを出た。
ハンジの気持ちも分からなくは無いが、人体実験するにはそれなりのリスクが伴う。
軽傷の兵士なら少々良いかもしれないが、重症で絶対安静が必要な負傷者に使用したという事がショックだった。
「コルネリア!!」
負傷者を収容しているテントから大声で呼ばれているのに気付き急いで戻ると、医療班の兵士の顔が青ざめていた。
「マズイ。
さっきの兵士が急に苦しんで倒れた」
それを聞いて横に寝かされた兵士を見ると、肌は白くなり唇は紫になって苦しんでいた。
心臓部分の胸を触ると骨折しているとはいえ、明らかに昨日見た時よりも陥没しており、青黒く変色している。
そして首筋の脈を触るとコルネリアはショックを受けた。
「折れた肋骨が…心臓に刺さった…
もう手遅れ…」
その言葉を聞いた兵士は腰を抜かしたのかドサッと座り込んだ。
コルネリアも動揺したが悟られない様に苦しんでいる兵士に問い掛ける。
「申し訳ありません。
今すぐ貴方を苦しみから解放します」
すると目の前で横になって苦しんでいる兵士は掠れた声で話しかけてきた。
「有難う…それとこれを…」
兵士はジャケットから1通の手紙を差し出してきた。
「…俺の…家族に…」
「分かりました…必ず渡します」
手紙を受け取るとコルネリアはまだ腰を抜かしている兵士に向かって言った。
「あれを持ってきてください」
そう告げると何とか立ち上がって麻薬が入った箱を持ってきた。
注射器に麻薬を入れ、最後に横たわっている兵士に言葉をかける。
「人類の為に有難うございました。
私達は貴方の命を決して無駄にしません。
どうか安らかに眠ってください…」
コルネリアは麻薬を注射すると程なくして兵士の心臓は止まった。
心臓が動かなくなった兵士の顔は穏やかで涙が零れていた。
手を握るとまだ温もりがあり、先程まで生きていたという事実が心に刺さる。
「くっそ!」
思わず反対の手で地面を叩いた。
「コルネリア…」
声をかけられたがそれに対して返事はしなかった。
壁外では何が起こるか分からないとは知っていたが、これに関しては例外に当たる。
もし壁内であれば助かったかもしれない命が、今目の前で尽きた事が悔しかった。
そして自分の無力さを感じて、涙が頬を伝った。