第6章 壁外の現実
「ハンジさん、どういう事ですか」
少し怒った様子で聞くコルネリアにその場に居た全員が驚く。
「どういう事って?」
言っている意味が分かっていない様子のハンジを見て分かり易く説明した。
「先程テントへ戻った時に手伝いの兵士に聞きました。
ハンジさん。
まさか、あの薬を使った訳じゃないですよね?」
それを聞いてハンジは動揺した声色で説明する。
「モブリットで実験しようとして止められたでしょ?
あれから研究していたんだけど、あれ以外上手く作れなくて…」
「危険です!」
思わず叫んだが気にする余裕がない。
「あの時私は言った筈です。
注射ではなく内服薬にしたらどうかと。
副作用が解明されていない注射薬を投与して、もし大変な事になったらどうするんですか!?」
コルネリアの様子を見てエルヴィンは静かにハンジに聞いた。
「ハンジ、説明して貰おう」
「何日か前に痛み止めの薬を使ったんだけど、副作用の確認をしようと思ってモブリットに実験台になってもらおうとした。
だけどそれをコルネリアが阻止したんだよ」
「副作用も分からない物を兵士に注射したのか?」
「あの兵士は今にも死にそうだった。
だからせめて痛みを感じない状態で殉職して貰おうと…」
「ふざけないでください!」
ハンジを始め、その場に居た全員が思わずコルネリアのほうを見る。
「あの兵士はまだ治る見込みがあります。
いえ、ありました。
それなのに貴方のおかげであの兵士は死にます!」
物凄い剣幕で言っているのを静かにエルヴィンは見つめていた。
「死なないと思うけど…」
「あの兵士は巨人に掴まれたせいで肋骨の殆どを骨折していました。
そんな状態で今はテントの中を歩き回っています。
これがどういう事か分かりますか?」
するとハンジは分からない様子でこちらを見てきたので、また詳しく説明する。
「あのままでは折れた肋骨の一部で内臓を損傷し、確実に死にます。
特に心臓付近の骨折が酷いのでそれが命取りになります」
「ハンジ…何故そんな事をした」
静かに、そして冷たい目線でエルヴィンはハンジに問いかけた。
「仕方が無かったんだよ…
あの兵士は痛みのあまりに叫びまくっていた。
だから使った…」
項垂れるハンジを見てコルネリアは言った。
「生きて戻れる可能性があったのに…」