第6章 壁外の現実
「団長に報告してくる」
「私が行きます」
テントを出ようとした兵士のジャケットの首元を掴んで後ろに下がらせるとコルネリアはエルヴィンがいるテントへと向かった。
そして今度は声をかけずに入ると、まだ幹部達がいた。
3人の顔を見ずにエルヴィンの前に立ち、怒りを抑えながら静かに告げた。
「また死亡者が出ました」
「そうか」
エルヴィンは表情を変えずにコルネリアを見つめ返す。
するとハンジが戸惑いながらも話しかけてきた。
「その兵士っていうのはもしかして…」
「そうです。
貴方が痛み止めだと言って注射した兵士です」
そう言いながらハンジを睨みつけると、明らかに申し訳なさそうな表情をしており、それが逆にコルネリアの心を逆撫でした。
「先程も言った通り、折れた肋骨が心臓に刺さり、それが致命傷になりました。
これは完全なる人為的ミスです」
それを聞いたハンジは俯いて小さく「ごめん」と呟くと、コルネリアはハンジの頬を渾身の力で殴った。
殴られたハンジは地面に尻もちをつきながらも顔を上げる気配はない。
「確かに痛み止めは必要不可欠な物です。
しかし、使う相手を間違えるとこのような事になります。
今後、一切医療班の任務に手を出さないでください」
それだけ言うとテントを出て医療班の所まで行き、外で座り込んだ。
ミケが匂いでコルネリアがテントの外に居るとエルヴィンに告げると冷酷な目でハンジを見る。
「ハンジ、これで分かったか。
いつものお遊びの薬と医療で使う薬とは全く別物だ。
遊び半分で使う物じゃない」
「…分かってるよ。
でも、どうしてもあの子の手助けをしたかった。
1人で医療班を背負うコルネリアを…」
「てめぇの言いたい事は分かるが、お前は何も分かっていない。
人間の体に関して少しは勉強してると言ったが、そんなもんじゃ役に立たねぇ。
あいつは兵士に麻薬を使った後、泣いただろうな」
リヴァイがそう言うとハンジは涙を流しながら顔をあげた。
「泣いた…?」
「この状況じゃ顔を見る事は出来なかっただろうが、あいつの頬には流したばかりのまだ濡れている涙の跡があった」
ハンジはそれを聞いて更に泣いた。
「話は帰ってからにしよう。
今回の作戦は失敗だ。
帰還の準備をしよう」
エルヴィンは立ち上がりながら言った。