第5章 壁外前
「そうですね」
ようやく顔を上げてリヴァイのほうを向くと目を瞑っていた。
「どうかされましたか?」
「お前には関係ない」
そう言っても尚目を開けない彼の両頬を掴み、そして引っ張った。
いきなり頬を引っ張られた事で驚いて目を開けた彼は何も言わずにこちらを見てくる。
「兵長は今まで沢山辛い思いをした筈です。
団長もそうですが、特に兵長はこの兵団の兵士の見本となる立場ですし、部下の気持ちを察して、悲しくても表情には出さずに心の中で泣いてます。
それは私には全てを受け止める事が出来ないぐらい沢山あるでしょう。
だから、せめて少しでも良いですから私にも兵長の悲しみを分けて頂けませんか?」
微笑みながらも真面目に言うと突然デコピンをされた。
「お前はどこまでお人好しなんだ」
「私は兵長の恋人です。
昨日までは全く実感はありませんでしたが、今日こうして兵長の傍に居る事で実感が湧きました」
すると今まで肩を抱き締められていた手が離れ向かいあう形になり、リヴァイは答えた。
「俺の仕事はエレンに傷1つ付けない事だ。
もし万が一、俺に何があってもエレンを優先する。
壁外では俺の事は忘れろ」
そう言った彼の顔は真剣だった。
それ程今回の壁外はかなり大変な事だという事が分かる。
「分かりました。
その代わり、兵長も私の事を忘れてください。
特に巨人と交戦する際は全力でエレンをお願いします」
「お前は交戦するな」
「それはその時の状況次第ですね」
「確かにそうだが…お前は班長という立場だ。
今回お前に付く兵士は部下だと思え。
もし巨人が現れたらそいつらに交戦させろ」
「私の指示に従ってくれたら良いですけど…」
苦笑いしながら言うとリヴァイはため息をついた。
「それぐらいはあいつらも分かると思うが…
お前の心配も分かるな」
「でもきっと団長直々に命令されてますよね」
「ああ。
お前の命令を聞かなければ即兵団から解雇する事にもなっている」
「解雇ですか!?」
「当たり前だろ。
上官の命令を聞かない奴は兵士失格だ」
そう聞いてコルネリアは上を向き考える。
その様子を見てリヴァイは不思議に思っていると突然呟いた。
「ハンジさんです!」
「…ハンジ?」
「ハンジさんに上官の命令を聞く薬を…」
「それだけはやめろ」
彼の顔は青ざめていた。
