第5章 壁外前
「有難うございます」
あまりの嬉しさにリヴァイを見ながら最大級の笑顔を見せた後、本の表紙を見ると驚いた。
「これは…!」
「どうした?」
「この本、ずっと前から欲しかったんです!
でも、とても高価な物で手が出せなくて…」
目を見開いたまま答えると機嫌を良くした彼は再びソファーに座り紅茶を一口飲む。
本を見つめたままリヴァイの横に座り本を開くと、様々な薬草の絵が描かれており、効能や副作用が詳しく書かれていた。
「喜んでくれたのはいいが、紅茶が冷める」
そう言われて意識が現実世界に戻り、慌てて紅茶を飲んだ。
そしてまた本を眺める。
「そんなに欲しかったのか?」
「はい。
この本、凄く高価ですが…頂いても構わないのですか?」
「俺が自分の為に買うと思うか?」
「思いません」
真面目な顔して答えるとまたクスクスと笑ってきた。
「お前が欲しい物は買ってやるから、何でも言え」
微笑みながら言ってきた彼を見て思考回路が少し停止したが、慌てて答えた。
「いえ!
それは凄く…何と言うか…申し訳ないというか…」
「遠慮する必要ねぇだろ。
それに、給料を貰った所で使う事が殆どない」
確かに毎日業務に追われている為、そんなに街に出掛ける事もなく、特にリヴァイの場合は掃除道具を新調する以外はあまり兵舎から出る事がないとハンジから聞いた事があった。
それに加えて旧兵舎に居たので更に街には行っていないだろう。
「3日後の壁外から帰って来たら、暫く忙しくなる筈だ。
特に今回は、俺が今まで経験した中で1番大変になる。
明日からは装備のメンテナンスや、お前の場合医療道具の準備をしなければならない。
かなり忙しいだろう」
「そうですね…でも正直不安です」
俯きながら言うと頭をポンポンと叩かれた。
「心配するな。
医療班は基本怪我人の手当てだ。
補給地点までの道中も大変だろうが、補給地点に着いたら医療班は寝る暇も無くなる」
「何となく予想してましたが、やっぱそうなりますよね。
そして見たくない物を見る事になるんですね…」
まだ俯いていると今度は肩を抱き締めてきた。
リヴァイから漂ってくる香りは心を落ち着かせるのに絶大な効果があるように思えた。
「現実を1度知れば辛い判断も出来るようになる。
心配する必要では無いと思うが…
目を背ける事だけはするな」
