第2章 1人だけ
「同期は別として、既に入団している兵士達に君の医学の知識の凄さを知って貰わなければならない。
実は今度の壁外調査は1ヶ月後なんだ。
だから早急に取り掛かりたいんだが…
明日の夕方で良いかな?」
団長直々に言われたら断る事なんて出来ない。
「分かりました。
しかしどの程度の事を話したら良いのでしょうか…?」
「初歩的な事で構わないよ。
具体的には人体の構造や大怪我をした時の緊急の処置を説明したので大丈夫な筈だ」
エルヴィンの言っている事は訓練兵の時点で習う事なので皆知っている筈…
そう考えていると心を見透かされた様だった。
「訓練兵で習ってはいるだろうが、さっき言った事より少しレベルが高い事を話してくれた方が皆認めてくれるかもしれないね」
その言葉を聞いて「分かりました」とだけ言うとエルヴィンは微笑んで部屋を出て行く。
そして脱力感を感じて椅子を元に戻して座った。
「エルヴィンの言っている事は正しいと思うよ。
そのぐらいしないとプライドが高い兵士が多いから、コルネリアの指示を素直に受け止める人は居ない」
先程2人で居た時の態度とは真逆の顔で真剣にハンジは話した。
「そうですね…私の話を聞いてくださるか分かりませんが、やれるだけの事はやってみます」
「そうこなくっちゃ!」
そしてまた後ろに周り込まれて抱き付かれる。
「は…ハンジ分隊長…」
息が出来ないぐらいの力で抱き付かれた為、声がかすれる。
「あ、ごめん!
コルネリアが来てくれたのが嬉しくって」
腕の力を緩めてはくれたものの抱き付かれたままだった。
「何か君を見てると妹みたいに思えてね。
ただ…」
ハンジは口篭る。
「どうかされたんですか?」
「幹部以外は君の事は何も知らない。
だからコルネリアの話をまともに聞いてくれるか心配でね」
口調からハンジが不安に思っているのが手に取る様に分かった。
新兵の講義なんて誰も聞きたくないだろう。
しかし自分自身を他の兵士に認めて貰うにはそれ以外に方法は無い。
「ハンジ分隊長、きっと大丈夫ですよ。
私も不安ですが団長からの命令ですのでやるしかありません」
そう言うとハンジはコルネリアから離れて床に落ちたままの医学書を机に置く。
「私を呼ぶときは『分隊長』は付けなくて良いよ」
横で微笑むハンジを見て微笑み返した。