第1章 そばにいるから【草津】
それから暫く錦史郎や熱史くんと会う機会はなかった。
私が文化祭前ということで忙しくなり、同じく文化祭前の彼らに会う暇がなかったのだ。
そんな私が再び錦史郎と会ったのは、文化祭の帰り道のこと。
友人と別れ、一人歩いていると家の前に人影が見えた。
「あ、来たよきんちゃん!」
「あぁ…お帰り」
「錦史郎…熱史くん…?」
それはあれからずっと気になっていた幼馴染みたち。
私を見つけると嬉しそうに顔を綻ばせ近づいてくる彼らの雰囲気は明らかに和やかなそれで。
「な、仲直り…したの…?」
その夢のような光景に目を瞠るばかりだった。
大切な人達が共に私のほうに向かってくる、そんな光景に。
「まぁ、な」
「心配かけたね、」
「ううん…とにかく、よかった…」
照れくさそうに笑っている錦史郎が、これが現実であると教えてくれた。
良かった、としか言葉が出てこないまま、私の目からは涙が溢れる。
それを見た錦史郎がギョッとしながら慌てて私をあやしにかかった。
「お、おい…なぜ泣く?」
「それだけ心配してくれてたんだよ、は」
泣き止もうと努力はしたけれど、熱史くんが私の手を握って"ありがとう、本当に"なんて言うから更に泣けてしまった。
子供のように泣き続ける私をそっと撫でてくれる二人の手つきは昔と同じ、優しいもののままで。
まるで幼い頃に戻ったかのような、そんな感覚までした。
「じゃあ俺はそろそろ」
「うん、またね!熱史くん」
用があるからと去っていく熱史くんの姿に手を振りながらふと横を見ると、錦史郎も軽く手を上げていた。
それが嬉しくて笑みをこぼすと、彼はそれに気付いてなんだと問いかけてくるも、私が言うつもりがないのを悟って家に入ることを促した。
「」
「?なに、錦史郎」
素直に倣って自宅の扉の前に来ると背中に声がかかる。
振り返ると彼は言いづらそうにしながらも、少し時間が欲しいと言ってきた。
彼がここまで言い淀むことも珍しくて、首を傾げながら了承すると、錦史郎は私の方に少し近付く。
「…あっちゃんから話は聞いた。先日の一件、変な誤解をしてすまなかった」
そして開口一番、頭を下げてきた。
先日の一件が何を指すかはすぐに分かったが、そんな頭を下げてもらうことじゃない。
そもそもの原因は私にあるのだから。