第9章 本当は【由布院】
「大学行けばあんたを養ってくれる素敵なお姉様はいくらでもいるでしょ」
「…俺に入れる大学があると思うか?高校だって怪しいのに」
怠慢主義もここまでくればいっそ清々しい。
かといって、それを甘やかすのも良くないだろう。
「いい加減にそれなりの努力をすれば良いんじゃない?やれば出来るでしょ」
「……あー、そうじゃなくて」
どう言えば伝わるかねぇと頭を掻く煙。
その姿は面倒臭そうなようで、かつ何かを決意したかのようにも見えた。
と、途端に腕を掴まれる。
「養ってくれる"誰か"が欲しいんじゃなくて、"お前"に養ってほしいの、わかる?」
「………全然」
「おまっ…ここまで言ったんだから察せよ、はぁ…」
嘘だった。
彼の言葉の真意は何となく伝わる、でもそれをはっきり口に出して言ってほしくて、わざとはぐらかした。
彼が私が良いという理由を、本人に説明してほしい。
ぬか喜びはもう嫌だ。
「…言ってよ、どうして私が良いの?」
「………」
「言わなきゃわかんないよ、煙…面倒くさくても」
「めんどかねぇ」
「…え?」
言葉を遮った彼の瞳は珍しくちゃんと開かれていた。
まっすぐな青い瞳が私を射抜く。
「お前が、好きだから」
まっすぐなその言葉が、私を震わせた。
「…ありがとう」
「養ってくれるか?」
「いやそれはしない。絶対あんたにも働いてもらう」
残念そうな煙を軽く叩く。
「でも、面倒は見てあげるよ…だから、幸せにしてね?」
一生。
十分、と笑って彼が差し出してくれた手をそっと握る。
いつもはぼんやりとしている彼が、この時だけは格好良く映った。
「お前を幸せにすることだけは、面倒臭がらねぇよ」
養ってほしいなんてただの口実。
俺はお前を他の奴に取られないように、予約しておきたかっただけなんだ。