第7章 女を輝かせるのは【下呂】
「え、工藤くん…?」
「どうしたんだよ、お前すげぇ綺麗になってんじゃん!一瞬誰かわかんなかったぜ」
私を振った彼、工藤くんは私に駆け寄ると、やや頬を上気させてそう告げる。
その言葉は複雑ではあったが、褒めてくれたので一応礼を言った。
「隣、いいか?」
「隣?え、……どうぞ」
隣にいた阿古哉さんはいつの間にか消えていた。
もしかして、気を使って立ち去ったのだろうか。
どこに行ったのだろう。
以前好きだった人が隣にいるというのに、私の心は彼のことしか考えていなかった。
それに気付いたのか工藤くんの手が私の頬に触れ、強引に目が合わせられる。
「なぁ、聞いてた?」
「…ごめん、何?」
「…仕方ねぇからもう一度言ってやる……お前、俺と付き合わない?」
「……え?」
面と向かってこんなこと言われては流石に頬が熱くなった。
好きだった人なら尚更。
でも、私の心は全く踊らなかった。
そして同時に、私の中で工藤くんという存在が好き"だった"人という過去になっていたことに気付いた。
「なぁ、どうなの?」
「…ごめんなさい、私はもうあなたのこと好きじゃないんです」
今、私の心を占める人は…。
「私を1番輝かせてくれる人は、もうあなたじゃないんです」
「は?何言って…おい、!」
工藤くんの制止を無視して走り出す。
どうして今まで気づかなかったんだろう。
恋に臆病になっていたから?
あの人と私じゃ釣り合わないと思ったから?
でもそんなこと今はどうでもいい。
この気持ちを、彼に伝えたい。