第7章 女を輝かせるのは【下呂】
「君、ちょっとはしゃぎすぎじゃない?」
「そうですか?だって楽しいんですもん!」
それから、私と阿古哉さんは遊園地で遊び尽くした。
最初は楽しむ私を見ているだけだった彼も、次第に一緒になって楽しむようになって。
夕方になる頃には2人ともくたくただった。
「どうぞ」
「ありがとう」
飲み物を手渡し、ベンチで一息つく。
炭酸の入った缶が小気味よい音がなって開いた。
「遊びましたね〜」
「僕としたことが、ついはしゃいじゃったね…」
美しくないと髪をいじる彼の顔はそれでも楽しそうにほころんでいる。
彼はあまりこういったところに来たことがないようで、着いた当初からその瞳がキラキラと輝いていたのに気付いていたけど、黙っていた。
「楽しかったですね、阿古哉さん!」
「…まぁ、暇つぶしにはなったんじゃない?」
言葉はそっけないけど、それは照れ隠しだって知ってるから。
だから私は笑顔を返す。
それを見た阿古哉さんは何かを考え込むと、おもむろに"あのさ"と話を切り出した。
「どうかしましたか?」
「僕は君にいろんなことを教えてきた…実際君はそれを吸収してどんどん綺麗になった」
「ちょ、やめて下さい、突然なんですか」
「いいから聞きなよ。…それでもね、僕が1番女性を綺麗だと感じる時は、そういった手入れが完璧な時じゃない」
「……いつ、ですか?」
気付けば真剣に彼の話を聞いていた私。
そんな私に微笑むと、阿古哉さんは前を向いて呟いた。
「恋をしているとき」
予想外の答えに目を見開く。
脳裏をふと、好きだった男子にフラれた時の情景がよぎった。
「誰かを一途に思っている時、女性は誰よりも光を放つんだよ。だから…恐れないで、恋することを」
阿古哉さんは気付いていた。
私が、どこか恋に臆病になっていたことを。
あの時の記憶は今でも苦しい。
でも、阿古哉さんに教えてもらってきたことはいつだって正しかった。
だから…。
「努力して、みます」
「ええ」
自分に出来る精一杯の笑顔で告げると、彼は頭を撫でてくれた。
その優しさに、あたたかさに、ひどく安心した。
そのとき、
「…おい、もしかして…?」
「……え?」
私の前に、私を振った彼が現れた。